思い残すことはなし、これが最後 ―― アメリカ赴任を終え、デトロイト空港の出国ゲートでそう誓ったのは二〇一九年の暮れのこと。
それから三年と経たずにアメリカに戻る、いや、再び訪れることになるとは。トホホである。
アメリカ出張の話が上がったのは夏のことだった。
クルマのことじゃなかったら絶対に行かないからな ―― 捨て台詞は、誰に届くでもない心の叫び、いや、愚痴だった。
もっとも、一般的な海外出張のイメージ、例えば商談、市場調査、現地視察といったいわゆる “ビジネスの場” に僕の出番などあるはずもないけれど。
それから数か月が過ぎても出張の話は具体的にならず、「結局、行かないなんて話になったりして」と呑気に構えていたのが、先々週になってGOサインが出て、慌ててフライトやホテルの予約を押さえたのだった。

アメリカという国を悪くいうつもりはない。少ないながらも友人がいるし、良い思い出がないといえば嘘になる。
ただ、相性といっていいか、僕にはどうも合わないのだ。
とはいえ、仕事は仕事である。
テストカーに乗り込み、走り出せば雑念は消えるし、アメリカという国に対するネガティブなイメージを変えるような出来事がないとは言い切れない。
おやじの愚痴はこれまでにして、明日からは現地の様子を届けたい。