ギター

 過日、出張先のホテルでとある映画を観た。

 二十一年前の公開当時からその作品が好きで、数か月前にも観たばかりだ。
 作中に映るイタリアと日本の街並みや風景の美しさもさることながら、挿入曲もまた素晴らしい。各シーンにとにかく合っているのだ。

 街角の電話ボックスでヒロインが手紙を読みながら泣き崩れるシーンとそこに流れる曲にいつもぐっとくる。
 何度となく聴いたはずの曲が、この日は不思議と深く耳に残り、「ギターで弾けたらいいなあ」などと不意に思ったりするのだから、自分で自分がわからない。

 そう思ったのは一時のことではなかった。出張帰りに実家に立ち寄ると、部屋の隅に置かれたギターを手に取った。

「気分転換に音楽を」 ―― そのギターは、ロンドンに住んでいた当時、フラットメイトの皆から誕生日にプレゼントしてもらったものだ。
 ラリードライバーとしてキャリアを積もうと渡英したものの、思うように運転できず、資金集めも上手くいかずにいて、行き詰っていたことに皆は気づいていたのだろう。皆の気持ちが嬉しかった。

 いつもクルマのことばかりで、音楽のおの字もない僕にとって、中学生の頃に音楽室で吹いたリコーダー以来の楽器である。
 クルマ男に音感などあるはずもなく、弦を触ってもその音が「ミ」なのか「ソ」なのかもわからなかった。

 思い出しては音を出す程度で、ギターが気分転換になったかどうかはわからない。それでもラリーの成績は少しずつ上向いていき、スポンサーにも恵まれ、世界ラリー選手権参戦へとつながっていくのだった。
 未だ弾けはしなくても、思いの詰まったギターである。

 あれから二十五年、クルマばかりの日常に変わりはない。
 ギターの練習を日課にするほど真面目ではないけれど、日々の積み重ねこそが大事であることはギターに限った話ではないだろう。出張先にギターを担いでいくようになったなら本気と言えそうだ。

 文中にもったいぶって書かずにいたことをおわりに。とある映画とは「冷静と情熱のあいだ」であり、そこに流れる曲とは「What a coincidence」である。

 さあ、練習だ、練習 ―― 。

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