ファミコンブームなるものがやってきたのは、小学何年生の時のことだったか。
晴れた日の教室で休み時間にクラスの誰かが「ファミコンを持ってる人は手を挙げて」と言い出して、四十人ほどの子供達の中で、女子二人と男子一人が手を挙げなかったその光景が目に焼きついている。
その一人の男子が僕だった。この頃すでに流行に鈍感だったようで、友人の家で一緒にテレビ画面に向かい、どのカセットで遊ぼうとも面白さがわからずにいた。
だから、「買ってよ」と親にねだることも、「欲しいです」とサンタクロースにお願いすることもなかった。
当時、夢中になって遊んだものといえば、額に肉と刻まれたプロレスラーの消しゴム人形、1/144に縮小された機動戦士のプラモデル、二つ星のロゴマークが眩しいラジコンカーだった。
やがて青年となり、いつからか中年になっても画面の中の何かを操作することに関心が向くことはなく、“形あるもの” に惹かれる。
ところが「興味がないから」とも言っていられない事態になった。
時代の波が押し寄せてきたのだ。ドライビングシミュレータである。
つづく