痛い。肉離れが、これほどに痛いものだったとは。
椅子に腰かけて、ぼんやりしていると視線の向こうに主不在のショッピングカートが風に押されて走っていた。
これは危ない、と立ち上がり、駆け出した次の瞬間に左ふくらはぎから「ブチっ」という鈍い音がたしかに聞こえて、激痛が走った。
もはや左足に体重をかけることはできず、片足飛びでなんとかショッピングカートに追いついた。
ショッピングカートにもたれて「これが肉離れか」かなどと考えていると、近くにいた老夫婦に声をかけられた。
「大丈夫か?」
「足に痛みが」
「何が起きた?」
英語で肉離れは、なんと云うのだろう。
咄嗟に思い浮かんだのは、直訳中の直訳であろう “Meat leave”(ミート リーブ)だ。食肉ではないけれど。
正解はわからなくても、不正解であることはわかる。いつもならわからぬ英単語はスマートフォンで調べるところだけれど、この時ばかりはそうした余裕はなかった。
「わかりません。でも大丈夫です。ありがとうございます」
と返事をして、ショッピングカートを近くの芝の上に停めた。
そのまま芝に座り込み、しばらくふくらはぎをさすりながら考えた。
救急車を呼ぶほどではないし、日曜日に病院は開いていないだろから、帰るほかなし、と。
片足飛びでマイカーにたどり着く。
マイカーは左ハンドルであるから、いつもならドアを開けて、右足から車内に入れるところを、そうするとわずかな時間とはいえ左足の片足立ちになることを意味し、あまりの痛みにそのようなマネはとてもできたものではなかった。
解決策はこうだ。右足で片足立ちの状態から、ドアの開口部に手をかける。次にお尻を先に入れて腰かけ、続けて左右の足を入れる。乗ってしまえば、こっちのものだ。
家に着くなりベッドに直行した。「ああ、楽だ」、 足を上げていると、痛みが和らぐことに気付く。
一息つくと、ポケットからスマートフォンを取り出して、肉離れの英語名を調べてみた。
Pulled muscle ―― なるほど。
一向に増えない英語のボキャブラリーにあるけれど、身をもって覚えたこの単語はたしかなものになりそうだ。
肉離れって病院行かなくても治るんですか?多分この後行ったんですよね?Pulled muscle、勉強になります。
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Ogsさん
コメントありがとうございます。はい、軽度であればそのまま安静にして治ることもあるようですが、僕は病院に行きました。近日中に話のつづきをまた書きますので、少々おまちください。
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