猫が好きだ。
住宅事情からしばらく猫のいない生活を送っているけれど、物心ついた時には家に猫がいて、長年を共に過ごした。
忘れられない思い出はいくつもあって、それらを頭の中に鮮明に描くことができる。

アメリカに住み始めて、もうじき半年になる。その間に猫を見ることなく、鳴き声を聞くこともなかった。
冬には雪が深く積もり、気温もマイナス二十度近くまで下がるこのあたりは、野良猫が暮らせる環境にないのだろう、などと想像していた。

ところが、先日、出社しようと玄関のドアを開けると、顔はトラ模様、体は黒一色の珍しい猫が歩いていたのだ。散歩かパトロールの途中だろうか。

「ツッツッツッ」―― 子供の頃から猫を見かけると舌先を鳴らして、ついつい気を引こうとしてしまう。

そうしたところで、見向きもされなかったことは幾度となくあるけれど、その猫は振り向いてくれた。
十秒ほどのことだったか、目と目が合ったまま互いに身動きひとつせずにいた。

そのかわいらしい姿を写真に撮りたくなり、静かにズボンのポケットから携帯電話を取り出して、何枚か撮ってもまだ猫は動かずにいた 。与えた第一印象は悪くなかったのかもしれない。

すっかり気をよくして「ミャー」とひと声発した次の瞬間である。猫は身の危険でも感じたかのように、一目散に逃げていってしまった。
「変な人に話しかけれらたら、急いで逃げないとダメよ」、そんな教えがあったか。

「今日はいるかな」―― 逃げ去られたとはいえ、あの日以来ドアを開けるのが毎朝の楽しみになった。

 

C023

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