初めてそのクルマを見たのは、暮れの近づいた昨年のこと。場所はヘンリー・フォード博物館だった。
「近い将来に君は運転することになるよ」―― もしもこの時、誰かにそう言われても、きっと信じなかったと思う。
あれから半年の時が過ぎて、今日までそのクルマを見ることも、思い出すこともなく過ごしていると、我が耳を疑うような話が舞い込んだ。
「 Ford GT を運転してみよう」
そう、“そのクルマ”とは Ford GT のことである。
話はつづいた。
「ステアリングホイールに並ぶ各スイッチ類の説明をしたいからガレージに行こう」
未だ英語に不自由しているけれど、キーを渡されたからどうやら聞き間違いではなさそうだ。
「OK、ついていくよ」
ガレージに向かいながら、さらに話はつづいた。エンジンから、ギアボックス、ブレーキとショックアブソーバーまで、各部の特性について予備知識を ―― かなりのモンスターマシーンであることが窺える。
ガレージに到着し、扉を開けるとそこに Ford GT が待っていた。斬新なエクステリアデザインにありながら、往年の GT40 のイメージを残した Ford GT のスタイリングが僕は好きだ。
ガルウィング型のドアを跳ね上げて、コクピットに乗り込むとシート合わせから始めた。
Ford GT は設計段階からドライバー=ヒトを重量物として考え、ドライバーの身長差によって車両の前後重量配分がデザイナーの狙いから外れないよう、シートはフレームに固定されているため、前後にスライドしない。
レーシングカーと同様にアクセルとブレーキの両ペダル、ステアリングホイールを前後にスライドさせることにより、シートポジションを合わせる。
好みのポジションに調整できた。つぎにスイッチ類の説明を受ける。
ステアリングホイール上にあらゆるスイッチが配置されており、ウィンカー、ライト、ワイパー、ドライブモードセレクターなど、ドライバーがステアリングホイールから手を離すことなく操作ができるようになっている。
説明が終わり、GO サインが出た。エンジンに火を入れると、瞬時に野太いエキゾースト音がガレージ内に響き渡る。
その場にいた皆が振り返り、視線は Ford GT に注がれた。
そしてギアをニュートラルから 1st に入れ、ゆっくりと走り出してガレージをあとにした ―― 。
Ford GT は、ルマン24時間レースで勝つことを使命として生まれたクルマであり、その走りはまさしくレーシングカーである。
もっとも印象に残ったのは優れたトラクション性能だ。650馬力に達するエンジンパワーをしっかりと受け止め、路面に伝え、前へ前と車体を押し出していく。
カーボンからなる軽量な車体と、高いトラクション性能から発揮される加速力はまるで地を這うロケットのようだ。
ルマンのデビューウィン、Ford GT はその困難な任務を見事に果たした。
3年目となる今年のレースは惜しくも落としたが、来年は巻き返してくるだろう。まだまだ速くなる。
かっちょえー!なんど! ドライブのチャンス、よかったですね!これぞアメリカン! レースカーのベース車両をドライブしたってこと?サーキット走れたの?
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YASHさん コメントありがとうございます。アメリカで、最初で最後の最高の出来事かもしれません(笑)。場所は明かせませんが、レースのベース車両です。
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