若葉マークなるものを車体の前後に貼り付けて走ったあの頃を生後数ヶ月の運転者とするならば、とうに成人を迎えた短くはない運転歴の中で、ナビゲーションシステムを買うことはなかったし、買おうかと考えたことすらなかった。
「便利だよ、買った方がいいよ」、と甘い誘惑は幾度となくあって、しかしそんなことにひょいひょいと乗っかる僕ではなかった。
「良かったら使って」、とポータブル型のナビゲーションシステムをもらったこともあったけれど、それでも使わずにいた。
道路地図こそ頼もしい道先案内役であり、どこへ行くにも地図帳を開いて、目的地を目指したのだった。
しかし、アメリカに来てついに地図アプリなるものに手を出してしまった ――。
日本では、書店、コンビニエンスストア、自動車用品店で取り扱われている地図帳も、ここではそれらの店に行こうとも売っていないのだ。
土地勘がないのはもちろんのこと、どこに行くにも初めてのこの地で地図帳がないとなると、目的地に辿り着くことは難しい。ましてや助手席に誰もいないともなれば、不可能に近い。
そもそもこの国では地図帳を見て、どこかに行くという概念がないらしい。
昨年、出張でデトロイトに来た際にレンタカーショップで「地図はありませんか?」と訊ねると、あふれる笑顔で「ないね。オプションにナビゲーションシステムがあるけど、Googleが案内してくれるよ」と返された。
運転免許証の申請手続きをしようと出向いた役所では、システムがダウンしたとかなんだかで、受付嬢に隣町の役所に行くよう促された際に「その役所はどこにありますか?」と訊くと「あなたのそのi-Phoneに訊いて」、と不機嫌そうに。
その印象は受付嬢というよりも受付女王だ。
明日につづく