日本でいわれるホタル族は、ここアメリカにもいた。ただし、確認したのは一人であるからホタル男としておく。
「煙草は外で」―― 奥さんか彼女に部屋から追い出されるのか、アパート前の駐車場で煙草を吸うその男の姿を何度か見ていた。
はじめは目が合っても挨拶をしなかったのが、じきに「Hi」と声をかけ合うようになり、最近になってホタル男が話しかけてきた。
「どうして君はクルマをバックで駐車するの? よくバックで駐車できるものだと、いつも思っていたんだよ」
たしかに、バックによる駐車はアメリカに限らず諸外国でもあまり一般的ではないようで、物珍しく映るのだろう。
話は思いのほか膨らんだ。
「バックで駐車した方が、つぎにクルマを出す時に楽だからね」
「けど、バックで駐車するのは楽じゃないよ」
「でも、あなたもクルマを駐車場から出す時にバックするでしょ」
「それはそうだけど、クルマ一台分しかない駐車スペースにバックで駐車するのと、バックで駐車場から広いスペースにクルマを出すのとでは難しさが違う」
「バックの方が小回りが利くから、コントロールしやすいよ」
「いや、僕には君のようなニンジャドライブはできそうにないよ」
「ニンジャドライブ?」
どうもこの国の人々は、特別な技術と見ると「Ninja」と形容したくなるのか、日常の中でその語をしばしば耳にする。
そういえば、スーパーの家電売り場に並ぶミキサーにもNinjaの文字がデザインされていた。一体どんなミキサーなのだか。
上手くバックで車庫入れを決めないことには運転教官に判を押してもらえず、運転免許証を取得して公道を走り出したならバックで駐車せざるを得ない場面に必ず出くわす。
今日までに乗り越えてきたあの試練は、ニンジャドライブを身に付けるための修業であり、鍛錬でもあったか。
Ninja まさに驚嘆の表現
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YASHさん コメントありがとうございます。いつか水面歩きを。自宅近くに池があるので、練習をする環境はあるのですが(笑)。
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