マン島TT

 

飛行機で乗り合わせたその男は、ダッヂTTのTシャツを着ていた。
イントネーションからアメリカ人と思われるけれど、オランダまでTTレースを観に行ったのだろうか。

見知らぬ誰かに話しかけたのは、初めてのことかもしれない。
もしも彼がそのシャツを着ていなければ、話しかけることはなかったように思う。

「オートバイのレースが好きなんですか?」
「君はダッヂTTを知っているのかい?」
「オートバイのレースのことは詳しくありませんが、少しはわかります」
「エキサイティングなレースだったよ! テクニカルなコースのレイアウトも良かったな」

青い瞳をきらきらとさせながら話す彼は体の大きな少年のようだ。

「いつかマン島TTを観に行きたいと思っているんだよ」
「いいところですよ。マン島以上にエキサイティングなコースはないと思います」
「君はマン島に行ったことがあるのか?」
「一度だけマン島のラリーに出たことがあります」

マン島TTとは、公道を封鎖して行われる“世界一危険”と称されるオートバイのレースである。

「それはクールだ! どうだった?」
「僕がこれまでに走ったラリーの中で、もっともリスキーでデンジャラスなラリーでした」
「ラリーもTTコースを走るのか?」
「全区間ではありませんが、コースの一部は含まれていたので、走りましたよ」

さらに話はつづく。

「マン島に行きたいな」
「今年のレースはどうですか? 5月にありますよね」
「そうなんだよ。でも、仕事がね」
「仕事はマン島から帰ったあとに」
「ははは」
「マン島に来て良かった、きっとそう思うはずです」
「考えてみるよ」

相当な“バイカー”と見える彼には、オートバイと行くリバプールからマン島へと渡るフェリーの旅を勧めた。
レース前であればレースの舞台となるその公道は誰でも走ることができるし、自ら走った上でレースを観戦したのなら、より深くマン島TTの魅力に触れることができるからだ。

マン島TT 2018は今週末に幕を開ける。
彼は今ごろ、愛車と共にアイリッシュ海を渡っているだろうか。

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