十年以上前の当時、数年後に市販化を目指す自動車の基礎開発に携わっていた。
僕は自動車の形を成す前の段階で現場から離れてしまったこと、またその自動車は日本を開発拠点としながらも北米専用車であったことから、その後を知ることも、日本の街中で姿を見ることもなく過ごしてきた。
「アメリカのどこかで見られるかもしれない」―― 昨年内に僕のアメリカ行きが決まると、まだ見ぬその自動車を思い出した。
しかし、探すと見つからない、会いたいと想うと会えないのは、一体なんの法則なのだろう。
待てど暮らせど見かけないのだ。すれ違っていた、気がつかなかった。いや、そんなはずは。
過日、デトロイト空港の駐車場でマイカーから降りると、一台の自動車が正面から走ってきた。
「あれか」―― ついにその日が来たのだ。
大型のボディに迫力のフロントフェイス、アメリカンなルックスにも馴染みのあるエンブレムをひと目見て、すぐにそれとわかった。
走り過ぎていくその姿が見えなくなるまで、目で追いかけた。
開発を経て、やがて量産車となり、ユーザーの手に渡って走っているのだと思うと感慨深いものがある。
あの自動車はどんな走りをするのだろう。ハンドリングもエンジンのフィーリングも、それからインテリアのデザインも。 興味が募る ―― 夢に出てきそうだ。