未練

 

日本を離れるにあたり、十年の歳月を共にしたマイカーと泣く泣く別れることになった。
僕の力、つまりは資力では、アメリカに連れていくことも、帰国の日まで日本に眠らせておくこともできなかったのだ。

アメリカ行きが決まって、友人や知人からマイカーを譲ってほしい、と声をかけてもらっていた。けれど、応えることはできなかった。

そうした近しい人に譲れば、マイカーの近況を訊ねることはできただろう。
ただ、「いいクルマですね」「よく走りますよ」と褒めてもらえば嬉しい半面、複雑な心境になるような気がしてならなくて、きっとヤキモチにも似た感情を。
また、マイカーか壊れてしまったり、万一大事にされていないことに気づいたら、と想像するだけで切なくなる。

先日、街中でクルマを走らせていると、対向車線にマイカーと同じ型のクルマを見かけた。
走り行くその姿をついつい目で追いかけてしまい、「やっぱり好きだ」などと物思いに耽った。

自宅に戻ると無性にマイカーのその後のことが気になり、インターネットで検索したところ、すぐに見つかった。
相場を超える高値がつけられていたのは、希少なモデルということもあるだろうけど、なによりその良好なコンディションが認められたのだと思う。
それにしても美形だ。似つかわしくない窓に貼られた蛍光色で塗られたプライスボードも、その美しさを隠すことなどできない。

パソコンを閉じて、ふと考えた。
足りなかったのは資力などではなく、想いではなかったか。想いがあれば、少なくともどこかで預かってもらうことはできたのではないか ―― 未練が込み上げる。

日本の中古車業界事情を考えると現実的ではないかもしれない。でももしも、日本に帰国した時にマイカーがどこかで眠っていたなら連れ戻して、もういちど一緒に走りたい。

 

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